法とは何か
- 「社会あるところに法あり」:法は社会の在り方に影響される
- 法は自由を保障するものか、剥奪するものか → 法の支配が実現していれば、権力が法を悪用して自由を剥奪することはない
- 法律が先にあるのではなく、社会によって法律が変化する(例:写真、葬儀、夫婦別姓)
ザインとゾレン
- ザイン(sein)=「である」:法則。客観的・普遍的なもの。現実と一致する。
- ゾレン(sollen)=「あるべき」:規則。主観的(価値)であり、普遍的なものではない。現実と一致しない場合がある。
- 混同してはいけない:死刑の存廃で、抑止効はザイン、自由主義の在り方はゾレン。
憲法の三つの特質と憲法と法律の違い
- 授権規範性:国民が憲法を制定し、下位法律に権利制限の作用を授権する
- 制限規範性:国家権力を制限する法だからこそ、無制限な改正はできない
- 最高法規性:憲法に反する法律は効力を有しない
- 憲法は国家権力を縛る法規範。法律は国民を規律するもの。向いている方向が逆。
近代立憲主義から現代立憲主義へ
- 近代立憲主義:消極国家(夜警国家)、議会中心主義、法治主義。自由権の保障。
- 近代立憲主義の危機:無制限な自由競争が社会的・経済的弱者を保護できなかった。資本主義の矛盾。
- 現代立憲主義:社会権の保障、国家の積極政策(公共事業等)、法治主義は維持、法の支配の採用。
- 法の支配とは:すべての国家権力が憲法を頂点とする法秩序に拘束される。法治主義が行政しかしばらなかったのに対し、立法権も拘束する。
大日本帝国憲法と日本国憲法
- 主権:天皇主権 vs 国民主権
- 人権:臣民の権利(法律の留保の下) vs 基本的人権(侵すことのできない永久の権利)
- 統治構造:天皇が統治権を総攬、各機関は天皇を輔弼 vs 三権分立、国民主権
- 非常大権:天皇に戒厳宣告・緊急勅令等の非常大権あり vs なし
- 軍部の台頭:統帥権の拡大解釈、天皇機関説事件、大政翼賛会 → 立憲主義が崩壊した教訓
公共の福祉
- 人権は無制限ではないが、「公共の福祉」は多数派の利益や公益ではない。
- 人権相互の衝突を調整し、他者の生命・身体・自由・権利や公共の安全・健康を守るために、必要かつ合理的な範囲で制約が正当化される。
- 人権制約の要件:目的が正当、手段が必要かつ過度でない。
国民の三つの義務
- 教育の義務(26条2項):保護者が子女に対して負う義務。国への義務ではない。
- 勤労の義務(27条1項):道徳的意味を超えて法的意味を認める説が有力。不労所得は禁止できない。
- 納税の義務(30条):国民国家を前提とした当然のことで、憲法に書く必要がないという説もある。
- 重要な点:憲法が国民に義務を課すのは憲法学的にタブー。憲法は国家権力を縛るもの。
人権享有主体性の基本構造
- 誰の人権か → どの権利か → 主体の性質上保障されるか → 制約があるか → 制約は正当化できるか
- 典型例:天皇、法人、外国人、公務員、児童生徒
- 人権享有主体性と、人権制約の正当性は区別する。
外国人と人権
- マクリーン事件の枠組み:「権利の性質上日本国民のみを対象」とされるものを除き、在留外国人にも及ぶ。
- 国政参政権は保障されないが、地方参政権は法律で付与できる。
- 公務就任権は職務内容により制約される。公立学校教員は国籍要件が問題となる。
平等権の構造
- 絶対的平等 vs 相対的平等:事情が同じなら同じに、異なるなら違いに応じて異なる扱いをする。
- 形式的平等 vs 実質的平等:制度上の同一性 vs 現実の不利益や負担の違い。
- 平等審査の視点:比較対象 → 区別の基準 → 不利益性 → 制度目的との合理的関連性。
平等権の具体的適用
- 性別による区別は憲法14条1項が明示する事由であり、固定観念や性別役割分業に基づくものではないかを検討する。
- 本人に帰責できない事情(嫡出でないこと、障害)を理由とする不利益は特に慎重に。
- 「周囲が戸惑う」という抽象的理由では足りない。具体的な支障と調整可能性を考える。
思想・良心の自由(憲法19条)
- 内心の自由。国家が個人の内心の内容を評価し、矯正し、不利益に扱うことを防ぐ。
- 署名、反省文、起立、斉唱、記名回答、儀式参加など、内心に反する行為の強制が問題となる。
- 思考の枠組:国家が何を求めたか → 思想表明に近いか → 拒否した場合の不利益 → 目的との関連 → 代替手段。
信教の自由と政教分離(憲法20条)
- 信教の自由:信じる自由、信じない自由、宗教的行為の自由、しない自由。
- 政教分離:国家が特定宗教と結び付くことを避ける制度原則。
- 目的・効果基準:目的が宗教的か世俗的か、効果が特定宗教を援助・助長するか、関与の程度はどうか。
- 重要な判例:津地鎮祭事件、愛媛玉串料事件、空知太神社事件、孔子廟事件。
学問の自由の保障内容(憲法23条)
- 研究の自由、研究発表の自由、教授の自由、大学の自治。
- 大学の自治:研究教育、人事、予算管理、施設管理、学生管理について自律的決定。
- 大学の自治:学問の自由を実効的に保障する制度。制度的保障(個々人の請求権だけでなく、憲法上重要な制度の核心を立法・行政が破壊してはならないという保障)として理解される。
- ただし「大学内部なら何でも自由」ではなく、研究不正、ハラスメント、法令遵守との調整が必要。
小中高校教員の教育の自由
- 大学教員と同じ完全な教授の自由は認められない。児童生徒の発達段階、学校・教師選択の余地の乏しさ、教育の機会均等が理由。
- 学習指導要領は大綱的基準。授業の具体的方法・教材の工夫を全て否定するものではない。
- 教育の自由は、教員の自己表現ではなく、児童生徒の学習権を実質化するための専門的裁量。
表現の自由の価値と規制類型
- 自己実現(個人の人格形成)と自己統治(民主主義への資する社会的価値)。
- 内容規制 vs 内容中立規制:表現の主題に着目するか、時・場所・方法に着目するか。
- 事前抑制 vs 事後規制:事前抑制は表現が社会に届く前に止めるため、事後制裁より影響が大きい。
検閲と萎縮効果
- 検閲は憲法21条2項により例外なく禁止。行政権が主体となり、網羅的に審査し、発表を禁止するもの。
- 明確性:禁止範囲が曖昧だと、人々は「本当は許される表現」まで控える(萎縮効果)。
- 重要な判例:ポルノ税関検査事件、北方ジャーナル事件、サンケイ新聞意見広告事件。
社会権の思想
- 自由権:「邪魔しないでくれ」。国家の不当な介入を排除。
- 社会権:人間に値する生活を可能にするため、国家に生活条件の整備・給付・保護を求める権利。
- 消極国家から積極国家へ:自由放任では経済的に弱い者は人間らしい生活を営めない。
- 社会権は、形式的自由を実質的に行使できる自由へと支えるための権利。
生存権の法的性格
- プログラム規定説 → 抽象的権利説(通説) → 具体的権利説(有力説)。
- 判例は立法府・行政の裁量を広く認めるが、著しく不合理な制度設計は違憲。
- 「健康で文化的な最低限度の生活」:単に生命維持できるだけではなく、その時代・社会において人間として生活するために必要な水準。
- 朝日訴訟の意義:生物として生存できる程度ではなく、人格・尊厳・社会生活が含まれる。
教育を受ける権利の構造
- 憲法26条1項:教育を受ける権利。社会権的側面と自由権的側面を持つ。
- 学習権:子どもが独立した人格として成長するために必要な学習をする権利。
- 教育権は、親・教員・国が自己の考えを子どもに押し付けるための権能ではなく、子どもの学習権を実現するための権能。
義務教育の義務と無償
- 義務教育の義務を負うのは保護者。子どもは義務履行の客体ではなく、教育を受ける権利の主体。
- 義務教育の無償:憲法上は授業料不徴収を意味する。教科書無償や就学援助は法律による拡張。
- 「能力に応じて、ひとしく」:発達段階に応じた教育と、実質的な教育機会の平等。
国民主権と参政権
- 国民主権:国の政治のあり方を最終的に決定する力が国民にある。
- 参政権は「国家への自由」。自由権は国家に干渉されない、社会権は国家に支援を求める。参政権は国家の意思形成に参加する。
- 選挙権の二面性:個人の主観的権利 + 公務としての側面。
選挙制度の原則
- 普通選挙、平等選挙、自由選挙、秘密選挙、直接選挙。
- 平等選挙:一人一票、投票価値の平等。1票の較差が問題となる。
- 小選挙区比例代表並立制:政権選択と民意の比例的反映の両方を目指す。
- 受刑者の選挙権:一律剥奪は過剰な制限か。未決拘禁者との対比が重要。
違憲審査制の意義
- 違憲審査権:法律が憲法に適合するかを裁判所が判断する権限。
- なぜ必要か:民主的に作られた法律でも、少数者の権利を侵害することがある。多数決の限界を示す。
- 抽象的違憲審査 vs 付随的違憲審査:日本は付随的違憲審査制。具体的事件の解決に必要な限度で判断。
裁判員制度と刑事手続
- 裁判員制度:国民が裁判官とともに刑事裁判に参加。司法への理解と信頼の向上が目的。
- 刑事手続の基本視角:「犯人を処罰するため」だけでなく、「国家が間違った処罰をしないため」の手続。
- 適正手続(憲法31条):法律の根拠、適正な手続、明確な刑罰法規。「手続なければ刑罰なし」。
刑事手続上の権利
- 憲法31条から40条まで:身体拘束、捜索・押収、拷問禁止、公正な裁判、黙秘権、一事不再理、刑事補償。
- 「疑わしきは被告人の利益に」:真犯人を逃す危険よりも、無実の人を処罰する危険を重く見る。
- 検察官が立証責任を負う。合理的疑いを超える証明がなければ無罪。
弁護人の役割
- 弁護人は検察官・裁判所を手伝う存在ではなく、国家刑罰権の行使が適正な手続を踏むことを確保する。
- 最善弁護義務:依頼者の利益が最大化するように活動。
- 雇われガンマン論 vs 聖職者論:最終決定権は本人が持つが、弁護人にも公的な役割がある。
9条の構造と意義
- 1項:国家による戦争・武力行使を国際紛争解決の手段として放棄。
- 2項:戦力不保持、交戦権不認。
- 9条の機能:個別の人権侵害が発生した後に争うだけでなく、国家が戦争を政策手段として選択し、戦力を保持することを根本から制約する。
自衛隊の合憲性と平和的生存権
- 政府見解:自衛隊は戦力に当たらない実力。9条は自衛権を否定していない。
- 最高裁は9条の見解を示していない。砂川事件、長沼ナイキ基地訴訟では判断を留保または回避。
- 平和的生存権:前文に由来。国家からの自由(徴兵・情報統制)、国家への自由(選挙・表現)、国家による自由(被害者救済・平和教育)の複合権利。
地方自治の憲法上の枠組み(憲法92〜95条)と教育委員会
- 憲法92条「地方自治の本旨」:団体自治(国から独立した団体が自らの権限と責任で事務を処理)と住民自治(住民の意思と参加に基づく)の二側面。
- 憲法による地方自治保障の性質については制度的保障説が有力:憲法は地方自治の具体的組織・権限をすべて固定せず法律による制度形成を認める一方、地方自治の本質的内容は法律によっても侵害できない。
- 憲法93条:二元代表制。議員と長の双方が住民から直接選挙される。
- 憲法94条:自治権と条例制定権。条例は法律の範囲内で制定する。
- 憲法95条:地方特別法の住民投票。
- 教育委員会は合議制の執行機関(行政委員会)。首長への権限集中を防ぎ、政治的中立性・継続性・専門性を確保する。
- 2014年改正:教育長と教育委員長を一本化、総合教育会議を設置。
憲法改正の手続(憲法96条)と18歳選挙権
- 憲法96条の手続:①原案の発議・提出 → ②国会の発議(各院総議員の2/3以上)→ ③国民投票の承認(過半数) → ④天皇が公布。
- 憲法改正では衆議院の優越がなく、衆参両院は対等。内閣に改正原案提出権があるかは見解が分かれる。
- 国民投票運動は原則自由。SNSでの活動にも一般法令や公務員規制は適用される。
- 学校教育との関係:教育基本法14条は「良識ある公民として必要な政治的教養」を尊重する一方、特定政党の支持・反対のための政治教育を禁止。
- 憲法改正は基本的人権や権力統制の仕組み自体を変更し得るため、慎重な熟議が必要である。